やっとボレーが当たるようになると・・・

 技術の向上には段階がある。継続的に練習しても技術は練習量に比例しない。練習方法に問題がなくても、停滞期(プラトー)があり、その期間が長いと、これが自分の限界ではないかと、閉塞感を感じることもある。しかし、練習を継続しなければブレイクスルーはない。

 向上心を持たざるをえない環境に身を置かなければ、テニス人生そのものが停滞期に陥る危険がある。上達を望まず、楽しく健康維を目的にテニスと関わるプレーヤーもいる。しかし、技術の向上を望まないがゆえに、自分で自分の壁を作ってしまうと、テニスに対するモチベーションが低下することがある。上達しないので達成感や自己肯定感を感じられず、テニスへの興味を失ってしまうのだ。

 ブレイクスルーのきっかけは、停滞している環境を変えることによって得られる。例えば格上のプレーヤーの練習会に参加すること、試合に出場することなどだ。これらの場面に臨むと、まずボールのスピードと伸びが違う。それまでの技術は役に立たないだけでなく弊害になることに愕然とする。私の場合、ボレー&ストロークのアップがまともにできなかった時は、身の置き所がないほど恥ずかしかった。

 緩い環境で身につけた感覚が邪魔をして、スイートスポットでボールをとらえられない。まともに返球できない。ベテランプレーヤーやコーチに「どうすればボールに当てられますか?」と聞いたりした。最初は笑われたが、真面目に悩んでいることがわかると、いくつか良いアドバイスをいただいた。しかし、それをすぐに実践できることはなく、悩みの日々が続いた。


【イノベーションを起こすには】

 とにかく、それまでのやり方が通用しない以上、新しいやり方を身につけるしかない。テニスのイノベーションを興すには、いくつかの段階が必要だ。

① 短期・中期・長期の目標を明確に定める

② 目標を達成るために必要な技術要素を明確にする

② 具体の練習方法を実践する


 目標を明確にするには「〇〇までに、〇〇の試合で優勝する」など言語化して具体化する必要がある。ただ何となく「うまくなりたい」という練習では、効率が悪い。上達に必要な技術や不足している技術が明確にならないので練習の効果が上がらないからだ。

 必要な技術が明確になり、実践してもほとんどの場合、うまくできない。そこで、多くのプレーヤーは自らの上達に壁(限界)を作り、諦めてしまう。ある技術を習得できない原因はいくつか考えられる。しかし、フェデラーにできることは、全てのプレーヤーにもできる可能性があることを知らなければならない。フェデラーがフェデラーでいられたのは、そのための練習をした結果ということだ。


【必要なパーツ】

 ある技術を習得するには必要な要素(パーツ)がある。良いパーツを正しい手順で組み立てれば、その技術を身につけることができる。技術を工業製品に例えるなら、最初に設計図を描き、必要なパーツをそろえ、組み立てれば製品を完成できる。

① 設計図(技術を習得するために必要なっ要素と使い方)を描く

② 必要なパーツ(個々の技術要素)をそろえる

③ パーツを組み立てる(技術要素を正確に実践する)

④ パーツの精度(技術要素を磨く)を高め、全体を改良する

 誰もがフェデラーになれるはずがない。すべてのパーツをそろえ、精度を高め、改良して維持するには、それなりのコストがかかる。しかし、フェデラーを多くの技術的パーツを組み合わせた高性能の工業製品に例えるなら、どんなプレーヤーでもそれをダウンサイジングして身につけることができる。

 このことは、理想主義者の空想ではない。ごく当たり前のことだ。テレビを見る人間のほとんどは、なぜテレビが映るのかを理解していないし、部品を組み立ててテレビを作れない。しかし、テレビが理解不能な超自然現象ではなく、設計図に従って組み立てられた工業製品であることは理解している。しかし、なぜかスポーツでは、優れたプレーヤーは超自然的な才能を持っており、凡人には絶対に習得できない、と思っている。しかし、必要な部品がそろっており、正しい設計図があれば、テレビが作れるように、フェデラーと同じ設計図で部品を組み立てれば、フェデラーと同じ技術を身につけられるのだ。

 フェデラーを研究して動画も見たけど、フェデラーの技術は習得できない、だから凡人には無理だ、というのは、思考停止の悪例だ。原因は、以下の3点だ。

① 必要なパーツが欠損している

② パーツの精度が低い

③ 設計図に間違いがある


【ラケットにボールを当てる技術的要素】

 さて、ボレーができなかったことを例に考察する。ラケットのスイートスポットで正確に打球するには、空間認知と予測が必要だ。あらかじめ打点が分かっていれば、ラケットをセットすれば100%スイートスポットで打球できる。予知能力者でなければ、あらかじめ打点を知ることができないので予測が必要だ。しかし、うまく打球できない多くのプレーヤーは、このことを意識していない。ボールを見ない、情報収集をしてないのは論外だが、いくらボールを見ても、うまく打球できるわけではない。できるだけ早く正確に打点を予測することが必要なのだ。

 空間認知は、意外に意識されていない必須要素だ。人間の目が立体視によって空間を認識できるのは、5m程度だ。つまり、ボールの位置を把握するのに必要な空間認知を立体視だけで行うことができるのは、ボールが5mまで近づいた時点だ。そこから打球動作を起こしても正確に打球することは不可能だ。


 上図で相手から自分にめがけてボールが飛んできた場合、青色で示したボールの軌道はプレーヤーの視点では点に近い。しかし、軌道上からずれることで、ボールの軌道が線になるので、多くの情報が得られる(三角測量の原理)つまり、相手の打球が自分に向かってくる(レシーブやアタックなど)場合は、できるだけ早くボールの軌道上から離れること必要なのだ。もし足を止めてボールを見ていると自分に向かってくるボールの空間認知が遅れ、動予測の誤差が大きくなり、打球動作も遅くなる。

 ボレーの場合、ノーバウンドで打球するということは、ストローク以上に空間上のボール位置を正確に把握しなければならない。左右の誤差以上に悩ましいのが上下の誤差修正だ。ボールは、スピードやスピンによって描く放物線が異なる。ストロークはバウンドした時点で左右に跳ねる量が増えるが、ボレーは強い横回転がかかっていない限り、左右の曲がりは上下の変化ほど大きくない。つまり、ボレーで打点を正確に予測するには、どのくらいボールが落ちるか判断するのが重要なのだ。

 ボールの打点位置を予測するには三角測量方式が有効だが、上下の変化を予測するには視点をできるだけボールの高さにそろえることが必要だ。

 棒立ち状態で視点の高さがボールから離れると、ボール軌道を上から見ることになるので上図のように軌道が直線に近づき、視点をボールの高さに合わせると横から見る軌道(放物線)に近づく。つまり、ボレーで正確な空間認知によってボールの軌道を予測するには、ボールの軌道から離れて、視点をボールの高さに合わせることが必要だ。

 このことは、ストロークでも同じだ。しかし、ストローク以上に打球までの時間が短く、空間認知が必要なボレーでは、重要度が高い。


【ボレーが当たるようになる時】

 これらのことが理解できると、できるだけ早く正確に打点にラケットをセットできるようになる。しかし、ボレーが下手なプレーヤー(かつてミスヒットを来る返した自分)は、ボールをヒットする直前にラケットを移動して何とかボールに当てようとしている。これでは緩いボールで時間に余裕があれば間に合うが、厳しい条件のボールをとらえることはできない。

 このことを理解し、練習でもできるだけ早く打点を予測してラケットセットするように心がけると、ボレーの練習が面白くなる。時間的な余裕が生まれ、相手のインパクト、音、回転など、多くの情報を処理できるようになり、ボレーの正確性が上がる。どれだけ早いタイミングでセットできるかなど、自分の中で苦手なボレー練習がゲームのように楽しめるのだ。

 ボレーでボールに当たらない停滞期(プラトー)を脱してブレイクスルーすると、他の技術要素に波及し。プレーの幅が広がる。動画で鈴木貴男のようなボレー名手の動きを見ても見え方が変わる。実践でもボレーやポーチを試したくなる。メンタルも劇的に変化するのだ。

0コメント

  • 1000 / 1000