杉村太蔵の挑戦に想う2

 こう言っては何だが、杉村氏は明らかな中年太りだ。途中でシャツを着替えるシーンでは、つい、腹に目が行く。そんな体型なので引きでプレーを見ると鈍重さを感じる。しかし、これは昨年との決定的な違いだが、基本に忠実な形の良いフォームでプレーするシーンが増えた。スプリットステップを始め、全てのプレーで忠実にすべき動作をやろうとしているし、実際にできている。

 私も試合になると練習とは違う真剣味が出る。しかし、試合を通して継続できないことが多い。むしろ、身体の動かない序盤で、気持ちだけが先走って力み、不要なミスを重ねてしまうこともある。試合経験の少なさ、年齢に応じたコンディション作りの難しさなどが原因だと思われる。

 私は他の競技でプレー経験やコーチ経験があるので、勝つ試合の流れをある程度読むことができる。勝つプレイヤーは全てのポイントを全力で取りに行くわけではない。その場面ですべきプレーを淡々と行う。余裕を持って勝てる相手には、ポイントごとに一喜一憂せず、慌てない。どれほどポイントが拮抗しても、負けるプレイヤーは1ポイントに拘泥して一喜一憂し、試合の勝敗を分ける重要な局面で失点することが多い。

 無双状態のフェデラーを見ると、その後の試合展開を予想できるほど試合の流れを支配しているように見える。

 今年の杉村氏の試合は、最後までどちらが勝つかわからない展開だった。最終盤に杉村氏の勇気ある攻撃が決まり、その時点で勝敗が決した。決勝ポイントの1ポイント前である。今大会にかける杉村氏の想い、プレッシャーなどを想うと、勝利後に泣いているように見える氏に同化してしまう自分を感じた。

 どのレベルの試合でも実力が拮抗するほど、互いに余裕がなくなる。むしろ変な余裕持つと勢いで押し切られることもあるので、持てる力を出し切った方が勝つ場合がある。今回の氏の初戦は、そういう試合だったと思う。

 大会に出ないで仲間内の試合を楽しんでいるプレイヤーは多い。エントリーフィーを支払って負けると後がない大会で打つ1ポイントは、練習試合のそれとは全く違う。ゴルフでは、側から見ると目を瞑っても入りそうなパットで腕が痺れて動かなくなることがある。ゴルフファンなら全盛期のジャンボ尾崎が勝負を決めるショートパットが打てなくなったシーンを知っている。

 ミスを恐れてチャンスボールを決めに行かないプレーヤーは恐らく試合経験が乏しい。ダブルスの練習試合でそれをされると、絶望的な気持ちになる。(面と向かっては言えないが)せっかく自分が攻め作ったチャンスボールをパートナーが決めに行かず、繋がれてしまうと、攻撃してミスをされるより目の前が真っ暗になる。チャンスを作るために渾身のショットを打つには、技術以上に勇気が要る。たとえミスになっても、パートナーならそれを活かして引き継いで欲しいのだ。試合経験があるプレイヤーはそれが分かっているので、多少無理をしても、パートナーの攻めによって得たチャンスボールは決めに行く。

 杉村氏の最終盤の一打は、1年間頑張った自分の想いを引き継ぐ一打だったと思う。

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