勝つためのメンタリティ

 負け癖について、コーチ・監督時代に随分苦労した。実力的に互角以上なのに試合で勝てない。リードしていても、逆転負けの不安や恐怖心が起きる。少しでも不利な状況になると、負ける予定調和に向けて試合が進む。自滅か一方的に攻撃されて負ける。何の為に練習して来たのか、と思う。

 負け癖を払拭するには勝つしかない。しかし、負け癖の故に、なかなか勝てない。

 これまでの大会で、実力的に自分が互角以上と思える相手にゲーム数をリードしていながら逆転負けをしたことがある。コーチの立場なら、選手に「負けることを考えるな!自分のやってきたことを信じて最後の1ポイントまで自分が勝つと思ってプレーしろ!」とアドバイスするところだ。結果は負けた。

 試合中に負けるかもしれないと一瞬でも考えたら負ける。マーフィーの法則である。不安や恐怖心を克服するより、予定調和して負ける方がその瞬間は楽なのだ。だから、無意識に普段やらないことをやって負ける。

 今回の試合では、このメンタリティを克服することを試みた。


【必然的に勝つための分析】

 技術、体力面で、相手と比較して項目ごとに優劣を分析した。前回負けた相手には、多くの項目で自分が上回っていることが分かった。サーブ、ストローク、ボレー、フットワーク、相手が上回っている項目もあるが、自分が上回っている項目が多い。試合中はそれを意識するようにした。

 その結果、相手の良いショットに対して、それ以上のショットで返球できた。相手が前に来た時は、しっかりパッシングショットを打てた。前回諦めたショットを追いかけて返球できた。技術的、体力的に優位なことをはっきりと自覚することで、自分のできることをやれば、必然的に勝つと確信してプレーできた。

 不思議なことに、このような意識は相手に伝わる。生物として備わっている能力だと思う。終盤の勝負所のポイントで、前回、自滅するか相手がカサにかかって攻めてきた場面で、相手を上回ることができた。相手が勝手に負けてくれた感覚だ。実際には相手の弱点をしっかり攻め切ったのだが「ここに打つとポイント取れる」と確信してプレーできた。前回は「ここで攻めなきゃ負ける」「ミスしたらどうしよう」「相手がしっかり対応したら」など、ネガティブな感情に支配された。今回は、自然な流れでプレーできた。

 不安や恐怖のマイナス感情がプラスに変化するのは非常に大きい。マイナス感情は運動を抑制し、プラス感情は活性化する。差し引きの差は思いの外大きい。強いプレーヤーのメンタリティはそのようなものだと再確認した。


【トスで勝ったら迷わずサーブを選択】

 前回、トスでサーブを選択した試合はほぼ勝った。初戦など、サーブに自信がない場合、レシーブを選択するのも戦略と思う。しかし、レシーブを選択すると、どうしても受け身の姿勢になる。今回は全てサーブを選択した。

 サーブは私の最大の武器の一つだ。しかし、威力のあるサーブは一般に成功率が低い。そこで今年度は、フラットは見せ球でスピンをかけて打つようにした。それでも、ファーストサーブが入れば、アドバンテージを取れる。今大会では、4試合でサーブを選択した。セカンドサーブを鍛えたので、先行されても挽回できるメンタリティを保てた。

 相手にとって常に自信を持ってファーストサーブを打たれるのは脅威だ。入っても入らなくても、常に一定以上のファーストサーブを打ち続けることは、試合全体のアドバンテージとなり、主導権を握れる要件である。たとえ50%程度の成功率でも、リターンに苦労しそうなサーブを打ち続けられれば、リターンにプレッシャーがかかり続ける。そこに神経を使えば、その後のプレーの集中力が削がれる。相手を悩ませるサーブの副次的効果だ。

 試合を通してプレッシャーをかけ続ければ、相手のサービスゲームにプレッシャーがかかる。サービスゲームを落とせば、敗戦を意識せざるを得ない。したがって、多少無理な戦略を選択せざるを得ない。

 せっかく威力のあるサーブを打てるのに、確率を考えて、打たないプレイヤーがいる。鈴木貴男はサーブアンドボレーでパッシングで抜かれても、次に決めればいいので、さほど気にしないように心がけている。相手にとっては、前に出続けられれば、常にパッシングショットを成功させなければならないプレッシャーがかかる。

 攻撃的な強いプレイヤーは、最後のポイントまで、攻撃的な姿勢を崩してはならない。その姿勢こそが試合に勝つための最大の技術と言えるのだ。

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