可能性を信じて変化を恐れない

 負けたプレーヤーが試合後に、自分は新しいことはしないと言った。好意的に解釈すれば、今の技術に磨きをかけるということだ。しかし、同じことをしても、次には勝てる、と解釈もできる。

 もし、後者なら、そのプレーヤーは、いまのくらすから昇級できないかもしれない。私は決勝で負けたことで、自分の技術を高めようと決意した。登山に例えると、高みを目指して進めば、一時的に下ることはあっても、気づくと遥かな高みに立っている。もし、進化の過程で試合で負けることがあっても、大きな飛躍のためと自覚できれば、敗戦にこだわる必要はない。やがて次元の異なる場所に立つことになるからだ。

 囲碁に「傍目八目」という格言がある。傍目で見ている人は、打っている人より8目手がが見えるということだ。囲碁で1目は凡そ1級の差なので、8目の差は非常に大きい。

 勝負事では、局面を俯瞰して状況を把握して、勝つために必要な戦術を実行することが大切だ。もし、相手の力が上回っているなら、傍目八目を加えれば良い。


【勝つための変化】

 年齢は半分程度、技術も実績も体力も上のプレーヤー{直近の大会で決勝戦の相手O氏)に勝つには、どうすればいいのか。それは無理、と諦めてしまえば可能性がなくなる。もし勝ちたいと思うなら、その方法を探ればよい。

 私の最大の武器であるサーブはブロックレシーブでリターンされた。ストロークもツキ玉をブロック気味に対応された。甘い玉はスピンの効いたボールで攻撃され、ドロップボールはスルスルと前進してアングルに決められた。

 すべてに技を封印され、勝てる可能性がほぼゼロの試合だった。しかし、5試合目ということで試合早々に両足が攣って、パワーを出しきれないハンディはあった。トランプに例えると圧倒的に不利なカードしか持っていない状況だ。しかし、ゲームに勝つには全てのターンで勝つ必要はない。細い道だが、勝利につながる道はある。

 ポイントは取れた。リードする局面もあった。つまり、全てのカードが弱いわけではない。しかし、相手はクズのカードを持っていなかった。つまり、最強に近いカードを出せば勝てるが、平均的なカードを出すと負ける。だから全体を通してみれば、必ず負ける。

 相手を圧倒するカードがないなら、平均で上回ればいい。しかし、平均で上回るには、相手の平均値が圧倒的に高い。つまり、相手を圧倒できるカードを入手しなければ勝てる見込みがない。


【上級プレーヤーに勝つ切り札は】

 杉村太蔵が今年の毎日トーナメント、2試合目で、昨年度大会の優勝者に負けた。彼なりにベストを尽くしたが、ほとんど勝ち目のない試合だった。

 特に2セット目は、完全にプレーの限界を見極められ、完封に近い内容だった。下位クラスの試合では、ミスをしない方が勝つ。しかし、上位クラスで優勝を目指すには、平均値が高い相手からエースを取れる技が必要だ。相手のミスを期待して勝てるのは、下位クラスのの試合でも途中までだ。相手を圧倒できる必殺技を発動できなければ、下位クラスでも優勝は難しい。

 私のサーブは最速で170km/hほどだ。アマチュアとしては十分に速い。しかし、試合で常にその速度を維持するのは難しい。スピンをかけると、平均スピードは150km/hもないはずだ。しかし、このスピードで、コースをついても、ブロックレシーブができるO氏はレシーブをコントロールできた。今のサーブ力ではO氏を崩すことができないのだ。

 そこでサーブのスピードを上げて厳しいコースに打てるコントロールの精度を上げることを考えた。難しいが不可能ではない。それができれば、今のクラスで負けることはなくなるだろう。

 もう一つは、キックサーブのような成功率の高いリターンが難しいサーブを新たに習得することだ。これも難しいが不可能ではない。

 一般のアマチュアプレーヤーがこれに挑まないのは、不可能だからではなく、必要性を感じていないからだ。ジュニアからテニスをしてシードの実績があるプレーヤーに大人から趣味で始めたプレーヤーが勝とうと考えないからだ。

 確かに難しいが、取り組まなければ可能性はない。全ての技術レベルを上げて平均値で上回る可能性はないかもしれない。しかし、一点突破、自分のスタイルを確立して技を磨けば、可能性はある。

 それがある限り、テニスは取り組みがいがある魅力を失わない。

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