格上の相手に勝つには
格上の相手とは、全ての技術が自分より上で、試合で勝つのが難しい相手のことだ。大会に格上の相手と当たっても勝つことを目指すべきだが、格上のプレイヤーは、相手に勝つ隙を与えない。
将棋の「詰み筋」とは、互いに最善手を差して勝敗が決した場面から終局までの手順だ。プロの対局では、詰み筋に入った時点で敗者が「投了」して対戦が終了することが多い。テニスは「投了」できないので、最後のポイントまでプレーしなければならない。敗者は負けるまで、試合を進めることになる。
格上のプレイヤーは、相手に勝つ可能性がないことをプレーで伝えてくる。将棋では「負け形を作る」場合がある。プロは棋譜を残すのも仕事なので、互いに勝敗が決まったことが分かっても、誰にでも分かる段階まで指し続けるのである。一手間違えると逆転する勝負を演出するのだが、プロの場合、一手差が逆転することはない。
テニスでは格上のプレイヤーが「惜しい」試合を演出することがある。相手プレイヤーがポイントは取れるがゲームを取れない、ゲームは取れるが、逆転することはない。「惜しかった。もう少しで勝てたかも」と評価される試合でも、実際にその少しはほとんど絶対的な差なのだ。
【格上の相手に勝つ可能性があるプレーとは?】
少し前のビッグ4時代、4人は手を抜いているわけではないが、接戦のように見えても余力を残していた。そして、ここぞという場面で、確実にポイントを取る。相手の全力を受け止め、それでも最終的に勝つ。いわゆる「横綱相撲」だ。
横綱同士、どちらが勝つかわからない試合は、観るものを興奮させる。それまでの試合とは、明らかに力の入れ方が違う。
格上の相手に勝つには、この構造を活かす。余力を残してプレーしているということは、切り札を切らずにプレーしているといえる。そういう試合での差は実力差より小さいのだ。
格上のプレイヤーでもポテンシャルを発揮するには、全力プレーが必要だ。力をセーブしていた状態から、全力でプレーをしようとすれば、ミスの可能性が高くなる。その状況に追い込むには、できれば序盤でリードしたい。終盤で相手が一歩届かなかい差を序盤で確保できればいいが、格上相手に大きな差をつけるのは難しい。そこで、戦術、戦略が必要になる。
【序盤で先行する戦術】
格上相手の力を封じるには、いつでも逆転できると思わせて力を発揮させないことが重要だ。いきなり切札を切ると警戒される。そこで、ギリギリでポイントとゲームを取る戦略考えてみる。格上のサービスゲームをブレイクするのは難しいので、サービスゲームキープに比重を置く。そのための戦略を考える。
(サーブ)
1 ダブルフォルト厳禁
2 簡単にリターンエースを打たれる甘いサーブ厳禁
3 攻撃力が低いサイド(概ねバックサイド)にスピン系のサーブを打つ
デュースサイドのセンター、アドサイドのワイドを狙う
(具体の戦術)
威力を落としてもファーストサーブを入れる。ブロックレシーブできる相手なら、サーブでポイントを取れる確率は低い。サーブポイントを狙って確率の低いファーストサーブを打つより、コントロールされたファーストサーブを確実に入れる方が格上にとっては嫌な戦術だ。甘いセカンドサーブをリターンアタックができる相手なら、不利な状況を増やすことになる。ファーストサーブのウィナーより、リターンアタックの失点、ダブルフォルトの失点が多いなら、サービスゲームキープできない。切り札のサーブは、ここぞという勝敗の分岐点で打てば良い。
デュースサイドのワイドサーブは、切れていくスライスサーブを使う。しかし、これはセンターを生かすための見せ球だ。格下相手なら、相手をコート外に誘うサーブは有効だが、ダウンザライン、クロスアングルを打てる格上なら、これらを狙われる。
アドサイドのセンターサーブは、距離が短いので確率が下がることに加えて、コースが甘ければ、カウンターリターンを食う可能性がある。いずれにしても、格上はフォアハンドの技術的選択肢を持っている可能性が高いので、序盤の有利な場面でこれらのサーブを打って様子を見る意味はある。
しかし、フォアハンドが得意な相手なら、勝負のポイントで回り込まれることを常に想定しておく必要がある。単純な戦術では、コースを読まれ、重要なポイントを相手の得意技で取られる。相手に意図を読んで、簡単に力を発揮させない工夫が必要だ。
(リターン)
格上に勝つには、リターンゲームを取らなければならない。チャンスは多くない。そのポイントを考える。
1 リターンゲームの入りに失敗した場合は、無理して挽回しようとしない
2 ファーストサーブの確率が下がった時に攻める
3 常に格上が苦手なコースにリターンする練習をする
(具体の戦術)
30-0、40-0と先行されたゲームを逆転するのは難しい。それができるなら格上の相手ではない。そのゲームは、逆転するより、カウント有利な場面でポイントを取る布石を打つ。
例えば、浅いリターンで相手を前に誘き寄せてロブを上げ、どの程度のロブが通用するか試す。また、パッシングを打って、ボレーの能力を測る。また、フォアサイドに打って、得意なコースを読み、ここぞという場面に備えるなど、意味なくゲームを失わない。
ゲームの入りに成功して、カウント有利になったら、そこで全ての技術を結集してゲームを取りにいく。それまで攻めていないコースを攻める、少しでも苦手なコースにキレのあるスライスでミスを誘う、ネットに詰めてプレッシャーをかけてミスを誘う、など重要なのは、攻め勝ちするのではなく、ミスを誘うことだ。
格上であってもサービスゲームブレイクを狙われていると分かれば、プレッシャーがかかる。当然、ギアを上げて積極的なプレーをしてくる。その場面で攻め切ることができるプレイヤーは格下ではない。例えばネットに出て山をはれば、簡単にオープンスペースにパッシングを打たれる。相手が打ちやすいコースをやや防ぐだけで良い。打ちにくいコースに打たせることでミスを誘う。
格上の相手なら、追い込まれた時のオプションを持っている。予めカウント不利な状況で、あえてその技を打たせて、ポイントさせる伏線をはれていれば、チャンスでそのボールを狙う。自分にできる最大のプレッシャーを与えて、ミスを誘うのだ。
使っていない技を初めて使う。練習でできない技を一か八かで使うのは数少ないチャンスを逃すことになる。必殺の切り札をここで使う。
(ストローク)
格上プレイヤーの最大の武器はストロークであることが多い。基礎力の違いは、ストロークに最も現れるからだ。つまり、ストローク戦に持ち込まれると、ほとんど勝ち目がない。格上のストローク力を封じる戦略を考える。
1 ボールの威力で対抗しない
2 エンドライン付近で勝負しない。
3 自分から決めにいかない
4 緩いボールを意図的に使う
(具体の戦術)
ストロークを打ち合えないから格上なのだ。圧倒的にスピードや回転が多いボールに対して、同等以上で打ち合おうとしても勝ち目はない。むしろ、それを凌ぐことで格上を嫌な気持ちにさせることが必要だ。
力のあるストロークを確実に返球するには、エンドライン付近でライジングを狙わない。その技術があれば良いが、ミスショットを繰り返すようなら、格上は無理に攻めず、ただ自分の打ちやすいようにストロークしてくる。この展開になったら勝ち目はない。
また、自分からウィナーを狙って難しいコースを狙っても、自分のミスが増えるばかりではなく、カウンターを打たれる危険性がある。そもそも格上プレイヤーは自分が不利な状況になった状況での返し技を持っている。それができるから上級者なのだ。むしろウィナーを狙った時点でコースを読まれ、カウンターを狙われると考えるべきだ。
そこで最も有効な方法の一つが、緩いボールだ。普段チェンジオブペースで使うムーンボールを積極的に使う。程よく回転のかかったそれなりに速いボールは、上のレベルで練習している格上プレイヤーにとって最も易しいボールなのだ。そもそもテニスで緩いボールを強打するのは難しい。つまり、ただの緩いボールを相手の苦手なサイドに深く打ち続けることで、相手に決め手をある程度封じることができる。
こう書くと「それってシコラーのこと?」と思うかもしれない。確かに格上相手に正面突破ができない以上、シコラーは有効な戦術の一つだ。少なくとも、あっという間に完封負けを喫するより、はるかに勝つ確率は高い。
しかし、確率が上がっても結果を出すには、格上を精神的に揺さぶることが必要だ。卓球のカットマンは守備型の戦術だ。しかし、安易に甘いカット打ちをしてきたらいつでも反撃してポイントを狙うのが現代のカットマン戦術だ。
格上のプレーヤーは、攻撃力がないとみると、簡単に返球し、少しでも甘いボールを余裕を持って攻めてくる。それをさせないためには、格上を精神的に揺さぶる必要がある。
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